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2012-06-03

萬狂言 特別公演「花子」他@宝生能楽堂





今のところ、存命の人間国宝の狂言師は知っている限り三名いらっしゃる。
私の中では別格の「ミスター狂言」こと大蔵流四世茂山千作師、
そして和泉流の野村萬師と野村万作師である。


流派によっても、人によっても芸風はかなり違うけれど
当然皆さん素晴らしい芸をお持ちであることは変わりなく、狂言界の宝。
狂言ファンとすれば機会があれば生で拝見したい存在であることに差はない。




そんな存在の一人野村萬師が齢80歳を超えて
狂言の秘曲と言われる「花子」に挑戦するということに加えて
おまけに大蔵流の山本東次郎師が妻役という異流共演、
そのうえ太郎冠者は流派は同じ和泉流でも野村又三郎家の又三郎氏という配役。
ここまでものすごいMIXで魅力的な演目はあまり聞いたことがない。


そりゃー、観たくなってしまうのが狂言ファンの人情というものでしょう(苦笑)





「花子」は御存じの向きも多いだろうが、秘曲と言われる高度な技術が必要ながら
(セリフの多い前半と違い、後半はほとんど謡のみ、これを語るのに技術がいるらしい。
セリフ構成の多い狂言には珍しいが、元が能の「班女」だからだろうか。)
内容は妻の目をなんとか盗んで愛人に会いに行こうする男のたわいのない話である。
さらにこの男は戻ってきてから、自分の身代わりにしていた太郎冠者に
その愛人の花子がどれだけかわいかったかいじらしかったかを訥々とのろけまくり、
入れ替わっていた妻に全部聞かれてしまうという間抜けっぷり。




ホントに男性はしょーもない、という単純なオチなのだが、
なんていうのかな、これ結構深い話だと思うんですよ。




地方赴任していた時に親しくなった女が上京してきて会いたいと文を寄こす。
現代と違って旅も大変な時代、たぶん女の方は本気なんだろうと容易に想像つくけど
男の方はどうもそこまでには見えない。
もちろん情はあるんだろうし好きは好きなんだろうけど、
それよりも「そうやって女に想われてる自分」の方がもっと好きなように見える。



花子がどれだけいじらしかったか、
恨み事を言わなかっただの可愛かっただの確かにべろべろなんだけど
(そしてこのべろべろ加減を演じるのが難しいのだろうと思うのだが)
なんていうか、彼女のことを本気で想っていない感じがどうしてもしてしまう。





文楽に「心中天の網島」という演目があるのだが、
その中で相思相愛で心中まで考えた遊女に愛想尽かしされて
奥方に「なんだあんな女」と怒り愚痴るシーンがある。
時代が違うのかもとは思いつつも
惚れた女の悪口を平気で奥方に愚痴る行動がずっと不思議だったのだが
ある本で彼には「所詮は遊女」という意識がどこかにあったのだろうと読んで
ああ、なるほど!と思ったことがある。



真実は男の幸せを思って遊女の方で縁を切ろうとしてくれたと判明し
その真心に打たれて結局は本当に心中までしてしまうのだが、
たぶんそれまではどこか「たかが遊女」だという意識があって
手に入れたいとは望んでも、本当に彼女のことを思っていたのではなくて
ある意味、美しい女性であれば、自分が望める相手であれば誰でもよかったと。
彼女の真心を知って初めて彼女と向き合い惚れたのではないかと思うのだ。



ちょっとうがちすぎかもしれないが、個人的にはこれですごく腑に落ちたのだ。




花子を見るとこれをどうしても思い出す。
上京してきた彼女は、これからどうするのだろうか。



そしてそんな薄情な男は、だからゆえひたすら愚かでかわいらしい。






他にも野村万蔵師の三番叟も、司祭役の太夫を兼ねる形式のものは初めて観て面白かったし、
個人的には野村太一郎師の那須与市話が思いがけずとてもよかった。

矢を射る動き、歌うかのような流麗な台詞回し。
動きがとにか美しく滑らかで静か。
東西の違い、上半身と下半身の違いはあれど、やはりダンサーの究極の美しさはここにつきる。
(ダンスはきちんと止まる一瞬がなければ増長して見え、どれだけテクニックがあってもけして綺麗ではない。)


笑いよりも芸術と型を優先する和泉流の意識はまさにはこの演目にはまっていて
それを若手であってもきちんと昇華しきっているのは
やはり和泉流野村家の系統の素晴らしさだろうと思う。





40年間日の目の見なかったという頂き物の単のデビュー。
演目にあわせてちょっとおぼこく色っぽく(笑)に
半襟を多めに出して花の刺繍の帯揚と黒の帯に紫の帯締で。




この単は織りが刺繍みたいでちょっと面白い。
襦袢の袖は黒レースで涼しげに。




根付は「聞かざる」


知らなくていいことは世の中に結構一杯あるよね。




通りすがりにお神輿に遭遇。



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プロフィール

hijiri

Author:hijiri
長年のITまみれな生活を経て、着物と煙管、和文化と美しいもの、酒と美食(B級)をこよなく愛する生活。
■日本の文化と”今”をつなぐ再実感マガジンJapaaanでライターやってます。
http://mag.japaaan.com/
■cafeglobe読者エディター、やらせて頂いてます。
http://www.cafeglobe.com/2013/06/030174cafeglobe_readers.html
■ミラーサイトはこちら http://ameblo.jp/hijiri-info

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